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広島地方裁判所 平成9年(ワ)1191号 判決 1998年10月09日

主文

一  被告は、原告らに対し、別紙物件目録記載の土地について、広島法務局昭和五二年一一月一四日受付第四三六五六号所有権移転登記を、相続を原因として、被告の持分を三分の二、原告畑宮修三の持分を六分の一、原告佐伯静恵の持分を六分の一とする所有権移転登記に更正登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文と同旨

第二  事案の概要

本件は、原告らが被告に対し、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につきなされた被告への所有権移転登記について、原告らが法定相続分に従った更正登記手続を求める事案である。

一  本件の基礎となるべき事実

1  本件土地

畑宮新次(以下「新次」という。)はもと本件土地を所有していた(争いがない)。そして、本件土地は墓地である(甲一の1、2)。

2  新次の死亡と相続

新次は昭和四九年二月一八日に死亡し、妻である畑宮チヨコ、子である被告、原告畑宮修三、原告佐伯静恵及び小刀和子(以下「本件相続人ら」という。)が右新次を相続し、法定相続分は、畑宮チヨコが三分の一、その余の相続人らが各六分の一である(争いがない)。

3  被告への所有権移転登記手続

被告は、昭和五二年一一月一四日、本件土地について、同四九年二月一八日相続を原因として所有権移転登記手続をした(以下「本件登記」という。)。

二  原告らの主張

本件相続人らは、昭和五〇年一〇月九日、被相続人新次の遺産分割に関する協議を行い(以下「本件分割協議」という。)、遺産分割協議書を作成したが、その際、本件土地は右協議の対象とならなかった。その後、被告は、右遺産分割協議書の余白に被告が本件土地を相続する旨変造した上で本件登記を行ったものである。

したがって、原告らは、保存行為に基づき、本件登記について、その各相続分に従った更正登記手続を求める。

三  被告の主張

1  固有必要的共同訴訟

本件土地は、墓地であって、本来相続財産に属さないものであるが、仮に本件相続人らの法定相続分に従った共有が認められるとしても、一旦被告名義になされた本件登記につき更正登記手続を求めるには本件相続人らの固有必要的共同訴訟でなければならない。

2  被告が本件土地に関する祭祀承継者であること

本件土地は、畑宮家の墓地であるところ、以下のとおり、新次の祭祀承継者は被告であり、祭祀承継者である被告名義でなされた本件登記は有効である。

(一) 本件分割協議に基づく祭祀承継者

本件分割協議の際、本件相続人らの間においては、事実上の長男である被告が新次の祭祀承継者となることが当然の前提となっており、右協議において、被告が新次の祭祀承継者となる旨の合意がなされた。

(二) 慣習に基づく祭祀承継者

仮に右合意が認められなかったとしても、慣習により、事実上の長男である被告が新次の祭祀承継者となった。

(三) 家庭裁判所による祭祀承継者の指定の必要性等

仮に右慣習が認められなかったとしても、祭祀承継者は家庭裁判所の指定によることを要するから、本訴のように原告らが法定相続分に従った共有登記を求めることはできない。

なお、原告佐伯静恵は、他家に嫁いでいるのであるから、新次の相続人として男性が存在する以上、法定相続分に従った共有登記を求め得る地位にない。

四  争点

1  被告が祭祀承継者であるか否か。

2  原告らの本訴に関する登記請求権の有無及び訴訟形態

第三  争点に対する判断

一  争点1(被告が祭祀承継者であるか否か)について

本件土地は、本件の基礎となるべき事実1記載のとおり、墓地であるところ、民法八九七条一項の「墳墓」とは、遺体や遺骨を葬っている設備をいい、墓地は、「墳墓」そのものではないものの、右「墳墓」に準じて同様に扱うものと解するのが相当である。したがって、本件土地は、被相続人新次の相続財産ではないが、被告単独名義の本件登記がなされているので、便宜上、まず、被告が祭祀承継者であると認められるか否かについて判断する。

1  本件分割協議に基づく祭祀承継者

被告は、本件分割協議の際、被告が新次の祭祀承継者となる旨の合意がなされた旨主張する。

ところで、本件登記手続を行う際に使用されたと推認される遺産分割協議書(甲五の1、弁論の全趣旨)には、本件土地が被告の取得分として記載されているものの、被告以外の本件相続人らの取得分については、「以上」の記載が取得する財産の記載の後、行を変えて記載されているのに対し、本件土地の記載は「以上」の記載と同じ行に記載されていること、また、右協議書の元となった約定書(甲二)及び相続税の申告時に提出されたと推認される遺産分割協議書(甲四、原告畑宮修三調書六項)にはそもそも本件土地の記載はないこと、さらに、本件遺産分割協議の際、本件相続人らにおいて、本件土地の取得については協議の対象となっていなかった旨の原告畑宮修三の供述(同人調書三項)の存在に照らすと、被告の右主張を認めるには至らない。

2  慣習に基づく祭祀承継者

被告は、慣習により被告が新次の祭祀承継者となった旨主張する。

新次の子には畑宮チヨコを除く本件相続人の外長男及び長女がいたものの、右長男は戦死し、右長女は病死したため、本件遺産分割協議時において、被告は戸籍上二男であるが、男性の内の長子であることが認められる(原告畑宮修三調書一項)。しかしながら、長子承継の慣習が存在したと認めるに足りる証拠はなく、また、本件土地上の墓の世話は、被告を除く本件相続人が主として行っている旨の原告畑宮修三の供述(同人調書一五項)の存在に照らし、被告の右主張を認めるには至らない。

二  争点2(原告らの本訴に関する登記請求権の有無及び訴訟形態)について

右一の認定によると、本件土地は、祭祀承継者が未だ定まっていない状態にあるため、本来であれば、本件相続人ら又はその他の利害関係者の家庭裁判所に対する申立てにより祭祀承継者が指定されるべきものであり、本件においては、右申立てはなされていない(弁論の全趣旨)。ところで、本件土地は、墓地であるものの、地積が六九m2あり(甲一の1、2)、被告単独名義で本件登記がなされていることにより、祭祀承継者が指定される以前に本件土地の一部が売却される惧れがないとはいえず、右惧れを回避するために、原告らが法定相続分に従って本件登記の更正登記手続を求めることは、右の限度で認められるとするのが相当であり、よって、右更正登記手続を求める限度では、固有必要的共同訴訟であると解する必要はなく、また、原告佐伯静恵が他家に嫁いでいるかどうかは問題とはならないと解するのが相当である。

三  以上の次第で、原告らの請求は理由がある。

(口頭弁論終結日 平成一〇年八月二一日)

(別紙)

物件目録

所在    広島市南区堀越二丁目

地番    四一三番

地目    墓地

地積    六九平方メートル

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